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中国の登録商標三年間不使用取消に関する最新の司法実務及び助言

 1.はじめに

2017 年の中国における新規の商標出願件数は,2016 年比 55.7% 増の 574.8 万件に達し,出願件数と増加率は共に過去最高を記録した。関連データによると,中国の新規商標出願の年間件数は,16 年連続首位となり,有効な商標登録件数は,世界の商標登録総件数の 40% 以上を占めている。中国における商標の出願件数及び登録件数の爆発的な増加により,新しい商標の出願に際して,同一又は類似商標が多数存在することにより拒絶される可能性がますます高くなっている。「中華人民共和国商標法」第 49 条では,「登録商標が…正当な理由なく継続して三年間使用されなかった場合は,如何なる単位又は個人も,商標局に対し当該登録商標の取消を請求することができる」と規定している。商標登録出願の障害を克服するため,商標局に行われた三年間不使用取消審判請求の件数も増えつつあり,2015 年~ 2017 年の不使用取消審判請求の年間件数は,それぞれ2.9 万,4 万,5.7万件で,取消された商標の件数は,それぞれ 2.18万,1.95 万,2.85 万件であった 1)。

関連する調査レポートによると,北京知識産権法院が審理した三年間不使用取消審判に関わる商標行政事件には,商標権取消不服審判に関する行政紛争事件,及び商標拒絶査定不服審判に関する行政紛争事件がある。前者は,当該商標が不使用取消されるべきか否かについて直接審理する事件であり,後者は,引用商標について不使用取消審判請求が提起され,商標登録の先行障害を克服するために提起された事件である。不使用取消審判に関わる商標行政事件は,北京知識産権法院が受理した商標の権利確定・権利付与に関する行政事件全体の約 25% を占め,その内,取消の成功率(一部商品の取消を含む)は 60% にも上っており,この意味では,不使用取消は商標登録を取得するための重要な手段の 1 つとなっている 2)。

2.登録商標の三年間不使用取消をめぐる中国における最新の司法実務

商標の使用とは,商品,商品の包装若しくは容器及び商品取引上の書類に商標を用いること,又は広告宣伝,展示及びその他の商業活動中に商標を用いることにより,商品の出所を識別するための行為をいう 3)。最高人民法院の司法解釈 4)によれば,商標権者自らの使用,許諾を受けた他者による使用,商標権者の意思に反しないその他の使用は,いずれも商標法第 49 条第 2 項の使用として認められる。不使用取消審判について,中国の商標法の規定によれば,当該手続の請求人は,基本的に挙証責任を負わず,商標権者がすべての挙証責任を負うことになっている。不使用取消請求がされた商標がその登録を維持できるかどうかは,すべて商標権者の挙証能力によるものとなる。このような不使用取消審判事件において挙証責任が商標権者に一方的に割り当てられる環境では,権利者が挙証について非常に大きなプレッシャーを受けざるを得ない。

以下では,重要な意義を有し,かつすでに効力が発生した判決を通じて,三年間不使用取消手続きに関わる司法問題について説明する。

2.1 取消対象商標の使用態様は登録態様と実質的な一致性が要求される

日本の商標法第 50 条によれば,日本の登録商標は実際の使用態様が,書体,仮名,外観等にある程度の変更があっても,称呼が同一で,かつ同じ意味を表す場合,当該登録商標の使用とみなされることが多いようである。中国でも同様の運用がなされているが,全体的には日本の運用よりも厳しいイメージがある。

中国最高人民法院の司法解釈 5)によれば,「実際に使用されている商標の態様が登録商標の態様と微妙な違いはあるがその顕著な特徴が変更されていない場合は,当該登録商標の使用とみなすことができる。」と規定している。

2017 年 11 月 17 日,最高人民法院は,亳州天然食品有限公司と商標評審委員会との間の不使用取消不服審判行政訴訟再審事件 6)において,「顕著な特徴の変更」とは何を指すかを明らかにした。本事件における係争商標は,1996 年 10 月 21 日に登録された図形と文字を組み合わせた商標(第887225 号;図 1)であり,第 32 類のミネラルウォーター等の商品を指定している。商標権者は,係争商標が指定期間内において実際に使用されていたことを証明するために,商標評審委員会及び一審法院に,係争商標の使用を他の会社に許諾する商標使用許諾契約及びその領収書(証拠 2),当該他の会社がその他のカラー印刷包装に関する会社と締結した印刷契約(証拠 3),「華佗飲用ミネラルウォーター」検査報告書(証拠 4),亳州天然食品有限公司の販売請求書及び一部の顧客証明書(証拠 5),当事者以外の個人と締結した「飲料シリーズプロジェクトの協力開発契約」(証拠 9)等の証拠を提出した。しかしながら,最高人民法院は,上記の証拠 3 及び 4 には係争商標が付されておらず,「華佗」という文字だけが付されているだけであり,かつ商標権者が係争商標の他に,第 32 類の商品について「華佗」という文字を含む商標を数件登録していたことから,上記の証拠だけでは係争商標の使用を証明することができないという判決を下した。

 
 

図 1:係争商標(第 887225 号)

さらに,最高人民法院は,この判決において,中国の商標法が三年間連続不使用取消制度を設けたのは,商標権者に対し積極的に登録商標を使用することを促し,長期間にわたって使用されていない登録商標を排除し,商標が有効に利用されることがその目的であることを明らかにした。さらに,商標不使用取消事件における商標の使用とは,商標のある要素,ある部分の使用ではなく,係争商標全体に対する使用である。係争商標の権利者が提出した使用証拠は,商標全体に関したものではなく,係争商標の一部の要素だけに関するものである場合,係争商標の権利者が係争商標を実際に使用したものと一般的には認めることができない。

結合商標に関する出願対策として,結合商標の顕著な部分を十分に保護するため,商標出願人は,従来,結合商標の各部分及びその全体について個別に商標登録出願するケースが多かった。例えば,文字と図形を含む結合商標であれば,結合商標全体,図形部分,文字部分と三つの態様でそれぞれ出願することを検討することが多い。しかしながら,すべての態様の登録商標が三年間不使用で取消されるリスクを避けるためには,単独の図形商標又は文字商標の使用証拠だけでは結合商標の使用証拠として認められないため,商標権者は,登録商標の各態様に関する使用証拠,特に結合商標に関する使用証拠を個別に収集し保存することが重要である。

2.2 取消請求された商標の顕著な部分を含む商号の使用は,当該商標の使用とは通常認められない

2018 年 3 月 12 日,北京市高級人民法院は,商標評審委員会と株式会社コーエーテクモゲームス及び安陽市曹操文化産業有限公司との間の不使用取消不服審判二審事件 7)において,商標を含む商号の使用について判断した。本事件の係争商標「曹操 CAOCAO」は 2011 年 2 月 28 日に登録(第7966655 号)され,第 41 類の映画製作等の役務を指定している。商標権者である安陽市曹操文化産業有限公司は,係争商標が 2011 年 4 月 28 日~ 2014 年 4 月 27 日において,実際に使用されていたことを証明するために,商標評審段階,一審及び二審訴訟において一連の証拠を提出した。しかし,北京市高級人民法院は,係争商標の構成要素である漢字部分は,曹操文化公司の企業商号と同じであるものの,曹操文化公司の実際の経営における係争商標の文字構成部分を含む企業名称の使用のみでは,係争商標の使用とみなされるわけではないという結論を下した。役務の商標であっても,誠実,合法的かつ有効に使用されていたかどうかを判断するときは,具体的な役務と対応させながら判断すべきものであり,係争商標が役務の提供者を識別する機能を有する場合のみ,当該役務において使用されていたと認めることができる。一部の証拠においては「曹操」という文字が示されているが,いずれも権利者の企業名称又は権利者が経営に参加したプロジェクトの名称として使用されているだけであり,しかも係争商標の態様とはある程度の差異が存在している。以上から,曹操文化公司が商標評審段階,一審及び二審訴訟において提出したすべての証拠を総合的に考慮しても,曹操文化公司が指定期間内に指定サービスにおいて係争商標を誠実,合法的かつ有効に使用していたと認定することはできない,と判示した。

商標の顕著な部分を含む商号の使用が商標の使用とみなされるべきか否かについては,これまで論争が続いていたが 8),北京市高級人民法院による当該判決によって次のことが示された。係争商標の文字を含む企業名称の使用のみでは当該商標の使用とみなされるべきではなく,さらに商標の使用は具体的な役務と対応させながら判断すべきであり,係争商標がある役務の提供者を識別する機能を有する場合のみ,その役務において実際に使用されていたと認められる。

2.3 取消対象商標が実際に使用されている商品は,登録された指定商品の範囲に含まれていなければならない

(1)実際に使用されている商品の物質的属性,商業的特性等に基づき,登録された指定商品の範囲内の商品であるかどうかを判断しなければならない

中国商標法第 56 条には,「登録商標の専用権は,登録を許可された商標及び使用を定めた商品に限られる」という規定があるが,実際に使用されている商品の名称が,必ずしも商標登録時に指定された商品の表記と完全に同じではない場合もある。そのような場合,実際に使用されている商品が,指定商品の範囲内の商品であるのか,あるいは指定商品の範囲内に属する商品と認められるのかという点について,どのように判断すべきであろうか。

2017 年 12 月 28 日,最高人民法院は,サントリーホールディングス株株式会社と商標評審委員会との間の取消不服審判行政訴訟再審事件 9)において,上記の点について判示した。本事件では,係争商標が係争期間内に「包装飲用水」という商品に使用されていたことについて当事者間での争いはなかったものの,「包装飲用水」が取消を請求された商標の指定商品である「液体飲料」に属するかどうかについて争われた。最高人民法院の判断によると,まず物質的属性から見た場合,包装飲用水は,飲用するための液体飲料の一種であり,包装飲用水は直接に飲用するための液体である。本件取消事件の係争期間内の『2007 飲料国家標準』では,「包装飲用水」を「飲料」の重要な種類の一つとして規定している。また,『2007飲料国家標準』では,固体飲料を「食品の原材料,食品添加物等を使って粉末状,顆粒状,塊状等に加工し,お湯などを注いで飲用する製品」と定義している。この固体飲料の定義から,液体飲料の形態は,固体飲料と対比して,直接飲用する液体であると合理的に推測することができる。以上から,包装飲用水は液体飲料の一種であることが分かる。また,『2015 飲料国家標準』では,包装飲用水を飲料の一つの種類としてだけでなく,さらにその序列が一段引き上げられた。『2015 飲料国家標準』には,『2007 飲料国家標準』において規定されていた固体飲料の定義と類似するような定義もあるため,包装飲用水が液体飲料の一種であることを示している。次に商業的特性から見ると,包装飲用水は飲用方式,機能,用途,販売ルート,消費対象が,液体飲料とほぼ同じである。飲用方式,機能,用途から見ると,包装飲用水と液体飲料は共に直接飲用でき,人体の水分を速やかに補給することができる。販売ルートと消費対象から見ると,包装飲用水と液体飲料は,共に普通のスーパーマーケットやショッピングモールで販売される。日常の生活経験から,両者は,通常,同一又は類似の商品棚に展示され,消費対象は共に一般の消費者である。最後に,『類似商品及び役務区分表』も,商品の種属関係を判断するときの重要な参考資料として利用できる。液体飲料は『類似商品及び役務区分表』に記載されている規範的な商品名称ではないが,『類似商品及び役務区分表』の 2017 版では水(飲料),ミネラルウォーター(飲料),純浄水(飲料)といった商品が記載されていることは,飲用水が飲料の一種であることをさらに裏付けている。それに加えて,飲用水はその形態が液体であることから,飲用水は液体飲料であることが推察できる。以上から,最高人民法院は,包装飲用水は液体飲料の一種であり,係争期間内において,係争商標が「飲用水」商品に使用されていたことにより,当該使用は指定商品「液体飲料」における使用に属すべきと判断した。

最高人民法院が上記判決において示したとおり,2 つの商品の間に種属関係があるか否かの判断を行うときは,商品の物質的属性,商業的特性,『類似商品と役務区分表』における商品分類に関する原則や標準等の要素を合わせて総合的に判断される。

(2)登録商標の指定商品のうちの 1 商品について使用されている場合は,この商品と類似する他の指定商品の使用とみなされる

実務上,取消請求人がすべての指定商品について不使用取消審判請求を行う場合,商標権者は,全ての指定商品について使用証拠を提出すべきか,それともいくつかの代表的な商品に関する使用証拠を提出すべきか,迷う場合が多い。

2017 年 12 月 21 日,最高人民法院は,基本網絡股份公司と商標評審委員会との間の取消不服審判行政訴訟再審事件 10)において,取消請求された商標が実際に使用されていた商品の使用が,他の類似商品にまで及ぶかどうかについて判示した。本事件における係争商標の指定商品は,「ベビーセット,スイムスーツ,靴,スポーツシューズ,帽子,靴下,手袋(服装),ネクタイ」の 8 個であった。しかしながら,商標権者が使用証拠を提出した商品は「スポーツシューズ」だけであった。上記の指定商品には,商標権者が実際に使用した「スポーツシューズ」以外にも「スポーツシューズ」と類似する他の商品も含まれていた。最高人民法院は,係争商標が指定されている商品のうちの 1 商品に使用されていれば,同一種類又は類似の商品に使用されているとみなすことができるとし,二審法院が係争商標の指定商品のうちの 1 商品における使用行為により他の指定商品における登録も維持できるとした判断は,問題がなく,支持できると判断した。

以上から,係争商標における指定商品の使用は,原則として,登録が許可された商品の内,「類似商品と役務区分表」に基づき類似と判定できる商品にまで及ぶことが分かる。

(3)関連商品における使用は,指定商品にまで及ばない

一方,中国商標法第 56 条は「登録商標の専用権は,登録を許可された商標及び使用を定めた商品に限られる」と規定している。最高人民法院は,2017 年 12 月 26 日の広東美晨通信有限公司と晟博邇公司の間の取消不服審判行政訴訟再審事件 11)において,商標権者が提出した「携帯電話」という商品に関する使用証拠が,「電池,充電器」の商品にまで及ぶかどうかという点について判示した。本事件では,商標権者は,登録商標「maxon」を使用する携帯電話の販売契約及び請求書に記載された取引商品は,ある型番の携帯電話であり,携帯電話の電池及び充電器の写真から,この型番の携帯電話,その電池及び充電器に係争商標が付されており,取引期間が指定された 3 年以内であるということが分かると主張した。また,電池及び充電器は,携帯電話の付属部品として,その価格が携帯電話の価格に既に含まれており,販売契約及び請求書には携帯電話以外に別途価格を示さないことを考慮すると,販売契約及び請求書の販売対象は携帯電話であると表しているが,電池及び充電器はその携帯電話と一緒に販売されることが当たり前のことなので,美晨社の証拠は,係争商標が誠実かつ有効に「電池,充電器,電池充電器」に使用されていたことを証明できると主張した。取消請求人は,上記の事実は認めるものの,「携帯電話」という商品に使用されていた証拠が「電池,充電器,電池充電器」等の商品にまで及ぶことについては認めなかった。最高人民法院は,審理を通じて,電池及び充電器は,携帯電話の不可欠な部品であるが,いずれも独立した商品であり,それぞれ独立の機能,効果を有することから,二審法院が,美晨社が提出した証拠が,係争商標の指定期間内において電池,充電器,電池充電器という商品を誠実かつ有効に使用していたことを十分に証明できないとした認定は不当ではないという結論を下した。

以上から,同一の商標に基づき個別に販売される商品であり,ある組合せ商品の不可欠な部品になる可能性がある場合であっても,当該商品が商標法上の類似商品を構成しないことが分かる。類似商品を構成するかどうかは,各々の商品の性質,機能,効果等に基づいて判断しなければならない。当然,『類似商品と役務区分表』は,類似するかどうかを判定するための重要な参考資料として利用することができる。

2.4 役務商標の使用証拠を提供する際に,証拠の関連性の形成に特に注意しなければならない

役務商標は,使用対象が無形の役務であるため,役務商標の使用方法は,商品商標とは明らかに異なる。一般的な商品商標については,生産,経営,販売流通等いずれかの分野の証拠を提供すれば良いが,役務商標については,他者に役務を提供する形であるので,証拠の関連性が要求される。

2018 年 3 月 30 日,北京市高級人民法院は,黄莉と商標評審委員会との間の取消不服審判行政訴訟二審事件 12)において,役務商標の使用証拠の提供について判示した。本事件で取消請求された商標は,第 39 類の「貨物輸送」等の役務を指定して登録された商標「文旅」(第 6036831 号)である。北京市高級人民法院は,審理を通じて,商標権者は,他者にパンフレットやブックマークの契約及び状況説明書等の印刷を委託していたが,その領収書及びパンフレットの写真等の証拠以外に,請求書等で当該委託を証明する証拠を提出しなかったため,実際の履行状況を確認できなかった。このことから,上記の証拠では,係争商標が付されているパンフレット,ブックマークの実際の使用状況が証明できないため,係争商標が指定期間において指定役務に使用されていたことを証明することができない。また,商標権者が提出したある会社との間の委託契約は,請求書等の証拠がなく,写真も期日を示しておらず,係争商標が「貨物輸送」等の役務に使用されていたことを証明できない。商標権者が提出した『天府早報』に掲載された広告は,指定期間内に行われたものであるが,僅か 1 回の単発の新聞雑誌における広告では,係争商標が商標法に規定されている誠実かつ継続的に商業使用が行われ,関連公衆が係争商標を通じてその役務の提供者を識別できたことを証明することはできない。以上をまとめると,商標権者が提出した証拠では,係争商標が指定期間内に指定役務において誠実,合法的かつ有効に使用されていたことを証明することができないという結論を下した。

以上から,証拠の関連性が,役務商標の使用を証明するために非常に重要であることが分かる。商標権者は通常,役務の提供前,提供中,提供後に商標が継続的に使用されていたことを証明する必要がある。その中の一部の証拠に瑕疵(例えば,役務提供中に使用される商品,役務提供場所内の商品に期日を示すことができないなど)がある場合は,他の証拠により裏付けることが必要である。

2.5 輸出のみを目的とする商品における商標の使用証拠,商標登録を維持することができる

輸出のみを目的とする商品における商標の使用は,近年の中国商標の司法実務において,議論が続いており,明確な結論が出ていなかった。北京市高級人民法院は,2017 年 12 月 11 日のケントジャパン株式会社及び鑫海貿易顧問有限公司と商標評審委員会との間の取消不服審判行政訴訟二審事件 13)において,ついにこの問題に関する最新の司法判断を下した。本事件では,商標権者は,係争商標である商標「VAN」(第 1323506 号)を付した第 25 類の「レーンコート,帽子,靴下」等の商品を OEM 方式で生産していたが,すべての商品は日本に輸出され,中国での販売は行われていなかった。取消請求人は,上記の使用状況から,係争商標は,中国において商品の出所を識別する機能を発揮しておらず,商標法上の商標使用を構成しない。また,最高人民法院は,従来の判決において,OEM で生産された商品における商標の使用は商標の使用を構成しないため,OEMによって生産される商品における商標の使用は他者の商標権の侵害を構成せず,商標権侵害事件と三年間不使用取消審判事件において,商標使用に関する認定は同一基準で判断しなければならないと判示していると主張し,この前提に基づき,係争商標が取り消されたとしても,商標権者が今後中国において当該商品を生産することに対して影響がなく,中国の対外貿易にも影響を及ぼさないと主張した。

しかし,北京知識産権法院及び北京市高級人民法院は,通常,商標使用は,商品流通と関連して考察すべきだが,三年間連続不使用による登録商標の取消に関する行政事件を審理する際に,商標法の関連規定の立法精神にも基づき,係わる行為が商標使用を構成するかどうかを判断する必要がある。商標権者は,積極的に商標を使用する意思がある限り,商品の販売地域を商標の使用を構成するかどうかの判断の要件として考慮して,登録商標を取消すことは適切ではない。本事件では,商標権者は,委託加工の形で係争商標付きの商品を中国国内で生産し国外へ輸出しており,当該商品が中国市場で流通されていないのは事実であるが,商標権者の生産,輸出行為は登録商標を積極的に使用する行為であり,商標が棚上げされたり不当に占有されたりしておらず,商標権者の行為を商標使用行為と認めないと,不公平であり,対外貿易拡大の政策にも背くことになる。従って,係争商標を三年間連続不使用の理由で取消すことは不適切であるという判断を下した。

以上から,輸出のみを目的とした商品に付される登録商標の使用証拠については,司法機関は,一般的に,商標使用が必ずしも中国市場における商品流通と関連していることにこだわるのではなく,商標を活用し,不使用商標を排除し,商標権者の商標使用を奨励するという関連法規の立法趣旨を考慮していることが分かる。これは,関連事業に従事している外国企業にとって歓迎すべきことで,中国の司法実務が経済のグローバル化に応じて必要な調整,促進されていることを反映していると言える。

2.6 取引慣行に合致した使用証拠のみが認められる

前述の調査レポートに掲載されているランダムサンプリング調査の結果によると,不使用取消審判事件において提出された使用証拠は,主に資格類(営業許可証,検査報告書等),実物類(物品,梱包等),契約類(使用許諾契約,委託加工契約,販売契約等),手形類(請求書,領収書等),広告類(新聞雑誌,屋外広告等)の 5 種類であった。その中で,資格類証拠を提出した当事者は47.7%,実物類証拠を提出した当事者は 67.7%,契約類証拠を提出した当事者は 56.9%(そのうち,使用許諾 44.6%,販売契約 43.1%,委託開発契約16.9%),手形類証拠を提出した当事者は 63.1%,広告類証拠を提出した当事者は 66.2% であった。しかし,上記証拠に基づき,商標法上の使用であると北京知識産権法院に認められたのは僅か21.2% であった。その理由には主に次の二つが考えられる。まず,原本を提出していない,自ら作成した証拠を提出した,証人が出廷しなかった等,証拠の形式上の問題であり,36.5% の商標取消事件においてこのような問題が存在していた。もう1 つは,登録商標が付されていない,使用期間が示されていない,指定商品以外の商品における使用,非公開使用,象徴的な使用等,商標法上認められない使用の証拠であったためである。

例えば,2017 年 5 月 23 日に北京市高級人民法院が判決を下した南通海爾斯医薬有限公司と商標評審委員会との間の取消不服審判行政訴訟二審事件 14)においては,証拠の合法性が一番の争点となった。本事件の判決の中で法院は,以下のように判示した。商標権者は他の化学工業有限公司と締結した「購入・販売契約」では,「締結日」欄と「納品期限」欄に記載した期日が事前に印刷されたもので,約定の決済方式は「送金」であるが,契約の締結日,納品期限及び請求書の発行日は同じ日付となっており,上記の取引は,取引慣行に合致していない。商標権者は他の 3 社と締結した購入・販売契約,請求書及びこの 3 社が発行した証明書の期日は同じ日であり,「証明書」の書き方及び証明内容もほぼ同じで,3 つの契約に示されている締結日,納品日及び請求書の発行日も同じであるため,上記の取引は,明らかに取引慣行に合致していない。また,商標権者はある病院と締結した購入・販売契約において,病院は,取消請求された商標「麗友牌」が付されている商品の「ハンドクリーム」を 10 本しか発注しておらず,その取引金額は 350 元である一方,約束した決済方法は「送金」であること等が示されている。上記の商品発注数は少なく,送金による決済も取引慣行に合致していない。商標権者が提供した多数の使用証拠の真実性に疑問があることに鑑み,北京市高級人民法院は,一審法院の判決を維持し,商標権者が提出した証拠の真実性については,取引慣行に合致していないことを理由として否定し,登録商標を取り消した。

また,商標「高通」(第 4305050 号)に関する取消不服審判行政紛争事件 15)では,北京知識産権法院は,開廷審理を通じて,上海高通半導体有限公司が提出した 2011 年 3 月 8 日に深セン市瑞融実業有限公司と締結した「高通」ブランドの電子部品販売契約の原本は,商標評審段階に提出された当該販売契約の写しとは一致せず,具体的には,この販売契約の原本には「高通」という文字及び図形商標が示されていないが,この販売契約の写しには示されていたことについて,上海高通社は,合理的な説明を行わなかったことを明らかにした。北京知識産権法院は,これに基づき,上海高通社が証拠偽造行為を行ったと認定し,『中華人民共和国行政訴訟法』第 59 条第 1 項第(2)号の規定に基づき,上海高通社の偽造証拠提供,訴訟妨害の行為に対し,法定の最高金額である 1万元の罰金を科した。

上記のケースから,商標使用の証拠は商標権者が保有し提供するため,実務上,商標登録を維持するために偽造される可能性があるが,このような行為は容易に判別され認定される行為でもない。従って,商標権者が提出した使用証拠の一部が取引慣行に合致しないと,司法機関の心証を悪くする可能性が非常に高く,司法機関は,常に商標権者が提供したすべての使用証拠について厳しく調査しており,更に証明力に対する調査も徐々に厳しくなってきている。

3.不使用取消への対策及び助言

3.1 先行登録商標の商標権者における対策及び助言

商標の使用は商業活動の結果であり,商標使用の事実も間違いなく相互関連する商業活動の証拠によって証明する必要がある。係争商標の商標権者は,普段から商標の使用証拠の保存を重視しなければならない。設立準備中の企業でも,商標の使用意思を証明する証拠を大切に保管する必要がある。もちろん,これらの証拠は,互いに裏付けられ,各証拠が相互に関連性を有し,取消請求された商標が公開され,誠実,合法的かつ継続的に使用されていることを証明できるものでなければならない。

一旦,他者から三年間不使用を理由に取消請求が提起された場合,商標権者は,それに対して十分な対策を講じるため,如何なる手がかりも見逃すことなく,自社の各部署に必要な証拠を収集させることが大事である。また,現地の代理事務所と連絡し,現行の審査実務においてどのような証拠を収集すべきかについて確認する必要もある。同時に,十分な証拠に基づき,有用な各証拠を個ではなく全体から考慮し,総合的な判断を行い,各証拠が相互に関連性を有しているかどうかを確認する。

使用証拠を提出する際に,提出しようとする使用証拠が,以下の 4 つの点について満しているかどうかを確認することをお勧めする。

1)使用証拠が,誠実性,合法性及び公開性を有しているか。

2)商標使用行為が,指定期間内に中国大陸において発生しているか。

3)使用証拠に係争商標が付されているか(又は含まれているか)。

4)係争商標が,指定商品又は指定役務において使用され,かつ商品又は役務の提供者を識別し,区分する機能があるか。

不使用取消手続においては,商標権者の挙証責任が大きな負担となるが,商標権者の商標使用行為に対する要求が厳しすぎるというわけでもない。商標使用の事実を証明する基準については,通常,高度の蓋然性という基準に従う。証拠は,登録商標を使用する指定商品が市場において関連公衆に公開され,かつ当該使用が一定の期間継続されており,当該使用行為が商標法の禁止規定に違反していないことを示していれば,当該登録商標が,誠実,合法的かつ有効に使用されていたと認められる。

一方,商標権者が,将来的に当該商標を使用する計画があり当該商標の登録を維持しようとするが,有効な使用証拠を提供できない場合は,商標取消請求者と和解,又は再出願を行う等により当該商標の登録権を確保することも可能である。

3.2 取消請求人における対策及び助言

中国において不使用取消審判請求の手続費用は安いため,不使用取消審判を通じて先行商標の障害を克服する方法が考えられる。商標調査により,先行引用商標が新規出願を提出しようとする商標と同一または類似商標を構成することが分かり,当該先行引用商標に対して三年間連続不使用取消審判請求を提出しようとする場合,新規出願の出願日前に提出するか,あるいは出願日以降に提出するか,検討しなければならない。すべての引用商標に対して不使用取消審判請求を行う場合は,当該不使用取消審判は,新規出願の出願日前に提出する必要がある 16)。なぜなら,新規出願と三年間連続不使用取消審判の法定審査・審理期間はいずれも 9 ヶ月であり,引用商標について三年間連続不使用取消審判請求を提出したとしても,新規出願が商標局に拒絶される可能性が高く,さらに三年間連続不使用取消請求が不服審判手続に移行された場合は,新規出願の拒絶に対して不服審判を行っても,商標評審委員会において拒絶される可能性が高いからである。新規出願の審査手続及び拒絶査定不服審判手続において,通常,審査官及び審判官は,引用商標に対する取消審判の審理結果を待たない。現行の実務では,引用商標がまだ登録されていない場合,あるいは新規出願の出願日前に引用商標について無効宣告又は不使用取消審判を提起した場合,審査官及び審判官は,引用商標に対する取消審判の審査結果を待つことになる。従って,新規出願の出願と不使用取消審判の請求のタイミングを合理的にアレンジすることは重要である。

4.結論

以上,最新の裁判例に合わせて,中国の商標不使用取消手続きにおいて主流となる意見,判断傾向等について分析,まとめを行い,商標権利者,取消請求人のそれぞれの立場から適切な助言を提供してきた。本稿が,当事者が複雑な商業環境において商標不使用取消に対して最も適切な対応策を講じることに役に立つことを願っている。なお,不使用取消に関する司法実務は現在も変化しているため,今後の判決についても引き続き注目する必要がある。

(注)

1)国家工商行政管理総局商標局,商標評審委員会が編著した『中国商標ブランド戦略年度発展レポート(2017)』

2)2017 年 6 月『「撤三」事件に関する北京知識産権法院の調査報告書』。

3)『中華人民共和国商標法』第二十八条。

4)『商標の権利付与・権利確定行政事件の審理における若干の問題に関する最高人民法院の規定』第二十六条第一項。

5)『商標の権利付与・権利確定行政事件の審理における若干の問題に関する最高人民法院の規定』第二十六条第二項。

6)(2017)最高法行申 7206 号「亳州天然食品有限公司,国家工商行政管理総局商標評審委員会商標行政管理(商標)再審審査と審判監督行政裁定書」。

7)(2018)京行終 123 号「国家工商行政管理総局商標評審委員会,株式会社コーエーテクモゲーム及び安陽市曹操文化産業有限公司不使用取消不服審判二審行政判決書」。

8)北京市高級人民法院は,(2017)京行終 2463 号「大陸タイヤドイツ有限公司,北京大陸自動車クラブ有限公司及び国家工商行政管理総局商標評審委員会二審行政判決書」において,商品又はサービスの提供者に対する区分は商標の本質的な属性であり,商標登録人が提出した証拠には確かに「大陸自動車クラブ有限公司」が明らかに示されており,その中に商標「大陸」の目立つ識別部分を含んでいることを考慮し,係争商標標識の使用と認めるという結論を発表した。

9)(2017)最高法行申 5093 号「サントリーホールディングス株株式会社,国家工商行政管理総局商標評審委員会商標行政管理(商標)再審審査と審判監督行政裁定書」。

10)(2017)最高法行申 7122 号「基本網絡股份公司,国家工商行政管理総局商標評審委員会商標行政管理 ( 商標 ) 再審審査と審判監督行政裁定書」。

11)(2017)最高法行申 8597 号「広東美晨通信有限公司,晟博邇公司商標行政管理(商標)再審審査と審判監督行政裁定書」。

12)(2018)京行終 1062 号「黄莉と国家工商行政管理総局商標評審委員会二審行政判決書」。

13)(2017)京行終 5390 号「ケントジャパン株式会社,鑫海貿易顧問有限公司及び国家工商行政管理総局商標評審委員会二審行政判決書」。

14)(2017)京行終 1214 号「南通海爾斯医薬有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会不使用取消不服審判二審行政判決書」。

15)(2018)京行終 850 号北京市高級人民法院行政判決書。

16)但し,複数の先登録商標が引用され,かつその中の一部の引用商標がまだ拒絶不服審判に係属している場合は,総合的に判断した上,三年間不使用取消審判を請求するタイミングを慎重に決定しなければならない。

(原稿受領日    平成 30 年 7 月 6 日)