中国商標法の最新の改正,および改正法の企業に与える影響

1.はじめに
2019 年 4 月 23 日付けの中国人民代表大会常務委員会第十期会議において,中国商標法の改正が決定された。今回の改正は,6 つの条文に関わっており,2019 年 11 月 1 日から施行されることになる。

中国商標法は,中国の知的財産権関連の法律の中でも,改正回数が最も多い法律であり,最も頻繁に改正が実施されてきた法律である。商標法は, 中国で初めての知的財産権分野に関する法律として,現行の『憲法』とともに 1982 年に公布された。1982 年の『商標法』の公布から今日までに,商標法は,1993 年,2001 年,2013 年および 2019 年の計 4 回にわたり改正されてきた。このように商標法が,最も早く公布され,最も頻繁に改正されてきたという事実は,中国の経済発展における商標保護への強いニーズが反映されている一方, 社会環境の劇的な変化と改革開放を通して,中国の商標保護システムに対して,常に,新しくてより高いレベルでの要求が絶えず提起されてきたことを物語っている。

2.今回の改正の背景

2013 年に商標法が改正された後,中国における商標登録プロセスの最適化,登録に要する審査期間の短縮および登録費用の削減により,中国および海外の当事者による商標登録取得の利便性が増した。これと同時に,「傍名牌」(有名ブランドをかたる行為)を目的とした,悪意ある登録出願や譲渡による利益獲得を目的とした大量登録 1)などの問題が顕在化し,市場経済の秩序や商標管理の秩序を大きく乱していることから,これらの問題に対して社会的な関心が高まり,それらに対する規制が強く求められるようになった。

前者の悪意ある登録出願行為については,現行の商標法において,明確な法律規定がなされており,商標審査機関や法院も関連案件に対処する際に,当該規定を厳格に運用しているため,これらの行為は効果的に抑制されていると言える。その一方で,後者の大量登録行為への規制については, 現行の商標法では,原則的な規定にとどまっており,実行可能な条項が直接的かつ明確には定められていないため,実務レベルにおける運用の効果としては満足できるものであるとは言えない。

無論,司法の過程においては,大量登録行為を抑制するために有益な方策の模索がなされている。例えば,最高人民法院は,2018 年 6 月 29 日付けの「(2017)最高法行申 4132 号判決書 2)」において「生産経営上の必要性からではなく,正当な理由なく,商標を大量登録し,不正な利益をむさぼることは,商標法第 4 条 3) の規定に違反する。商標法には,企業による商標登録出願の件数についての禁止的規定は設定されていない。しかしながら,商標権は,法により流通・譲渡されることが可能であるものの,商標の登録出願と譲渡行為は,いずれも企業の正常な生産・経営上の必要に基づくものでなければならないと規定されている。」と指摘している。

今回の商標法における改正内容はそれほど多くない。今回改正された個々の条項の内容をまとめると,以下の二点になる。一つ目は,登録商標の「使用」の面が強調されている点である。二つ目は, 商標権の保護を強化し,損害賠償の基準を高めた点である。これらの主な目的としては,悪意ある登録出願行為を根絶し,個別の事件に反映された最高人民法院における裁判の趣旨を考慮し,「商標登録出願があくまでも使用を目的としたものである」という制度の出発点に戻ることにある。また,知的財産権の保護を強化するという趨勢に対応しつつ,損害賠償の基準を引き上げることにより,商標権の保護を強化することにもあると言えよう。

3.改正に関する解釈

今回の改正は,6 つの条文に関係している。以下,改正された条文を「登録商標の使用の強調」と「商標権の保護に関する強化」の観点から二つに分けた上で,改正箇所について詳しく説明する。

3.1    登録商標の使用の強調

3.1.1    第 4 条第 1 項

改正前:

自然人,法人,又はその他の組織が,生産経営活動において,その商品または役務について, 商標専用権を取得する必要がある場合には,商標局に商標登録を出願しなければならない。

改正後:

自然人,法人,又はその他の組織が,生産経営活動において,その商品または役務について, 商標専用権を取得する必要がある場合には,商標局に商標登録を出願しなければならない。使用を目的としない悪意のある商標登録出願は,拒絶されなければならない。
 
現状,実務レベルにおいて非常に大きな問題となっているのは,違法行為のコストが余りにも低いことに起因する,悪意ある商標の冒認出願や大量登録行為がなかなか後を絶たないことである。商標の使用を目的としない,このような商標の冒認出願や大量登録行為により,中国国内における新興企業の継続的なブランド保護が難しくなるばかりではなく,海外企業のブランドの中国への進出も妨害されている。そのために,本来の商標権者が往々にして,悪意を持った商標権者に高額な金額を支払う形で,商標を買わざるを得なくなり, 商標トロールが横行するようになった。このような行為に対応するため,商標権者は,これまで『商標法』第 44 条 4)に基づく規制を求めてきた。すなわち,悪意ある商標が登録を受けた後においても,無効手続きにより,悪意ある商標の無効宣告を請求することができることである。しかし,当該事件の審理にあたっては,冒認出願人により大量に登録された商標の件数や権利者の商標の中国における知名度を始め,悪意の商標を無効とするには厳しい条件を満たされなければならない。これは,本来のブランド所有者の権利保護に対するコストとリスクを高めており,悪意ある商標登録の出願行為への効果的な抑制の点から見ても不利益となっている。

近年,各級法院と国家知識産権局商標局は,審査段階で悪意のある商標登録を阻止できるようにすることを検討し始めている。すなわち,初期査定段階において,「実際に使用する意図がなく, 不正目的のために大量の商標を登録出願する」行為については,直接拒絶できるようになるということである。商標法第 4 条の立法の趣旨としては,商標のビジネス面における属性を強調するということにある。商標とは,ビジネスの主体がビジネス活動や経営活動において,商品や役務の出所を区別するための標識を指す。商標法第4 条は, 商標の行政手続きまたは民事事件において,商標局や法院が直接引用することはほとんどないものの,最高人民法院が,前述の(2017)最高法行申 4132 号判決書において,旧商標法第 4 条の立法趣旨について,拡張的な解釈と解読を行ってい る。今回の商標法第 4 条の改正にあたり,追加された内容は,まさにこの事件に対する判決に反映された司法精神の具現化だと言える。今回の法改正を経て,第 4 条が商標に関する異議申立て,無効審判事件に適用される以外にも,商標登録の審査段階において引用することが可能となり,審査段階において悪意ある登録の阻止を実現可能にすると共に,商標の使用義務を強調することになった。国家知識産権局の商標局が悪意ある冒認出願行為について設けた「ブラックリスト」制度と併せて考えれば,今後,商標登録の審査時に,審査官は,出願人が「ブラックリスト」に掲載されている場合,悪意ある登録にあたると判断でき,理論上,商標法第 4 条「使用を目的としない悪意ある商標登録出願は,拒絶されなければならない」という規定を直接適用することにより,当該商標登録の出願を直接拒絶することができるだろう。したがって,商標法第 4 条の改正は,商標登録における悪意ある出願を根絶する上で重要な役割を果たすことが期待できる。

3.1.2    第 19 条第 3 項

改正前:

商標代理機構は,委託者が登録を出願しようとする商標が,この法律の第 15 条及び第 32 条に規定される事由に該当することを知っているとき,または,知るべきであるときは,その委託を受けてはならない。

改正後:

商標代理機構は,委託者が登録を出願しようとする商標が,この法律の第 4 条,第 15 条及び第 32 条に規定される事由に該当することを知っているとき,または,知るべきであるときは,その委託を受けてはならない。

第 19 条の改正は,第 4 条の改正と連動した改正である。第 19 条は,商標代理機構による信義誠実の原則に基づいた代理義務に関する規定である。つまり,悪意のある登録出願人からの委託については,代理機構は法によりその委託を拒絶しなければならないというものである。改正前には, 代理人が代理を拒絶する状況として,商標法第15 条と第 32 条に規定された事由が含まれていたものの,商標法第 4 条の改正に伴い,第 4 条に悪意登録の阻止の職能が付与されたため,第 4 条の内容として,代理人が悪意のある商標登録の委託を拒絶すべき事由の範囲内に含められるということは,法律のあるべき姿勢を示したものだと言えよう。言い換えれば,商標代理機構は,専門的な組織体として,悪意登録を阻する法的責任を負わなければならなくなったのである。

3.1.3    第 33 条

改正前:

初期査定,公告された商標について,公告の日から 3 ヶ月以内に,この法律の第 13 条第 2 項及び第 3 項, 第 15 条, 第 16 条第 1 項, 第30 条,第 31 条,第 32 条の規定に違反していると先行権利者,利害関係者が判断したとき, または,この法律の第 10 条,第 11 条,第 12 条の規定に違反していると何人が判断したときは,商標局に異議を申し立てることができる。公告期間を満了しても異議申立てが無かった場合は,登録を許可し,商標登録証書を授与し公告する。

改正後:

初期査定,公告された商標について,公告の日から 3 ヶ月以内に,この法律の第 13 第 2 項及び第 3 項,第 15 条,第 16 条第 1 項,第 30 条,
第 31 条,第 32 条の規定に違反していると先行権利者,利害関係者が判断したとき,または, この法律の第 4 条,第 10 条,第 11 条,第 12 条,第19条第4項の規定に違反していると何人が判断したときは,商標局に異議を申し立てることができる。公告期間を満了しても異議申立てが無かった場合は,登録を許可し,商標登録証書を授与し公告する。

商標法第 33 条の今回の改正は,主に何人でも異議を申し立てられる絶対的事由を補足したものである。つまり,従来の商標法第 10 条,第 11 条,
第 12 条の絶対的事由をベースに,第 19 条第 4 項「商標代理機構は,その代理役務について,商標登録を出願する以外に,その他の商標登録を出願してはならない」という規定を追加すると共に, 改正後の商標法第 4 条の規定をも追加したのである。したがって,本条の改正は,「代理機構が代理範囲を超えて登録する」場合について何人でも異議を申し立てられる絶対的事由に加えたことから,当該事由により何人であっても異議申立てを行うことが可能となった。また,第 4 条に規定されている「使用を目的としない悪意のある商標登録出願」を何人でも異議を申し立てられる絶対的事由に取り入れることにより,異議申立てによる悪意を持った登録の阻止が強化された。

3.1.4    第 44 条第 1 項

改正前:

登録を受けた商標は,この法律の第 10 条,第 11 条,第 12 条の規定に違反している場合, 又は欺瞞的な手段若しくはその他の不正な手段で登録を得た場合は,商標局は当該登録商標の無効宣告を行う。その他の単位,または,個人は,商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。

改正後:

登録を受けた商標は,この法律の第 4 条,第10 条, 第 11 条, 第 12 条, 第 19 条第 4 項の規定に違反している場合,又は欺瞞的な手段若しくはその他の不正な手段で登録を得た場合は,商標局は当該登録商標の無効宣告を行う。その他の単位,または,個人は,商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。

第 44 条第 1 項の改正は,第 33 条の改正と連動したものである。第 33 条は,初歩査定がなされた未登録商標について,異議を申し立てるための法的根拠であり,第 44 条第 1 項は,登録を受けた商標について,無効宣告を請求するための法的根拠となる。この 2 つの条項には,いずれも絶対的事由として第 19 条第 4 項と改正後の商標法第 4 条が追加されている。悪意の登録を阻止するための法律の規定が異議申立てのプロセスと無効宣告のプロセスにおいて一致されたことにより, 異議申立てのプロセスと無効宣告のプロセスが効果的に結び付けられ,悪意を持った登録行為の阻止が商標保護の全プロセスにいて,一貫された形で実行されることになり,悪意を持った登録行為阻止に対する効果が最大限期待できるようになるだろう。改正後の商標法第 4 条に「使用を目的としない悪意のある商標登録出願は,拒絶しなければならない。」という内容を追加したことにより,審査官には,初期査定段階においても,その職権により能動的に出願を拒絶できる権利が付与された。また,第 19 条第 3 項には,商標代理機構の審査義務が追加され,「代理機構が使用を目的としない悪意のある商標登録出願の委託を受けてはならない」という規定がなされている。そして,第33 条と第 44 条がセットとなり,これらの事由を異議申立て及び無効宣告請求の理由の一つとしたのである。ここから分かる通り,改正後の商標法におけるこれら 4 つの条項は,全面的,かつ,完全な形で悪意のある商標の冒認出願と大量登録行為を阻止するための制度体系を規範化することとなった。更に,この制度設計は,「相互連動,相互監視」の精神が貫徹されている。商標出願に関する根本的な問題だけでなく,商標代理の規範化から商標権利の付与・商標権利の確定・商標権紛争の処理に至るまで,全方位的な法的保護が提供されている。これは,国内外の誠実な経営者にとっては心強い話となろう。

3.2    商標権の保護に関する強化

3.2.1    第 63 条

改正前:

第 1 項    商標専用権侵害の損害賠償額は,権利者が権利を侵害されたことで受けた実際の損失により確定する。実際の損失を確定することが困難なときは,侵害者が権利を侵害したことで得た利益により確定することができる。権利者の損失又は侵害者が得た利益を確定することが困難なときは,当該商標の使用許諾料の倍数を参照して合理的に確定する。悪意により商標専用権を侵害し,その情状が深刻な場合,上記の方法により確定した金額の一倍以上三倍以下でその賠償額を確定することができる。なお, 賠償額には,権利者が侵害行為を抑止するために支払った合理的な支出を含まなければならない。

(第 2 項    略)

第 3 項 権利者が権利を侵害されたことで受けた実際の損失,侵害者が権利を侵害したことで得た利益,登録商標の使用許諾料を確定することが困難なときは,人民法院は,侵害行為の情状を応じて,三百万元以下の賠償支払いを判決する。

改正後:

第 1 項    商標専用権侵害の損害賠償額は,権利者が権利を侵害されたことで受けた実際の損失により確定する。実際の損失を確定することが困難なときは,侵害者が権利を侵害したことで得た利益により確定することができる。権利者の損失又は侵害者が得た利益を確定することが困難なときは,当該商標の使用許諾料の倍数を参照して合理的に確定する。悪意により商標専用権を侵害し,その情状が深刻な場合,上記の方法により確定した金額の一倍以上五倍以下でその賠償額を確定することができる。なお, 賠償額には,権利者が侵害行為を抑止するために支払った合理的な支出を含まなければならない。

(第 2 項    略)

第 3 項 権利者が権利を侵害されたことで受けた実際の損失,侵害者が権利を侵害したことで得た利益,登録商標の使用許諾料を確定することが困難なときは,人民法院は,侵害行為の情状を応じて,五百万元以下の賠償支払いを判決する。

第 4 項(新設) 人民法院は,商標紛争事件を審理する際,権利者の請求に基づき,登録商    標を盗用した偽造商品については,特別な事情がある場合を除き,廃棄処分を命じることとす    る。主に登録商標を盗用した偽造商品の製造に使われる材料,工具については,廃棄処分を命じ, かつ,その補償を与えない。或いは,特別な情況において,上記の材料,工具を市場に流通させることを禁止し,かつ,その補償を与えない。

第 5 項(新設) 登録商標を盗用した偽造商品は,単に盗用した登録商標を取り除いただけでは,市場に流通させてはならない。

この条項の改正ポイントは,主に二つある。一つ目のポイントは,商標専用権の侵害行為への懲罰を強化したことである。二つ目のポイントは, 登録商標を盗用した偽造商品,および,登録商標を盗用した偽造商品の製造の際に主に使われる材料,工具に関する処置の方法を明確にしたことである。本条の改正内容は,悪意をもって登録商標専用権を侵害する行為に対する賠償額の係数と法定賠償額を高める一方,新設された第四項と第五項では,登録商標を盗用した偽造商品,および, その製造に用いられる材料,工具等の処置方法(廃棄するのか,市場へ流通させることを禁止するのか)が明確にされている。これにより,侵害者は侵害製品に関する如何なる補償も得ることができず,賠償額への引当もできなくなる。言い換えれば,侵害者の違法コストを最大限に引き上げることにより,登録商標に対する盗用行為を最大限に阻止できるようにすることを目指しているのである。

また,注意すべきは,偽造商品は盗用した登録商標を取り除いただけでは,それを市場に流通させることが許されないものの,通常の実務においては,社会資源の浪費を避けるために,公益性を持ったルートまたはその他の非ビジネスルート(人道主義的な観点からの救済や貧困層又は災害地への寄付など)に乗せることが認められているという点である。

3.2.2    第 68 条

改正前:

第 1 項第 3 号:(3)この法律の第 19 条第 3 項,第 4 項の規定に違反した場合

改正後:

第 1 項第 3 号:(3)この法律の第 4 条,第 19 条第 3 項,第 4 項の規定に違反した場合

第 4 項(新設):悪意による商標登録出願に対し,情状により警告,罰金などの行政処罰を与える。悪意による商標訴訟に対し,人民法院が法による処罰を与える。

第 68 条は,実際の商標代理機構の規範化を行うための条項である。第 1 項第 3 号に,改正後の商標法第 4 条を追加したことにより,商標法が悪意登録の阻止を強化したことが体現されている。代理機構が悪意ある登録出願を拒否することは,代理機構が負うべき法的責任であり,それに違反した場合,行政,民事,ひいては,刑事責任を負わなければならない。新設された第 4 項は, 悪意による登録出願に対する懲罰をさらに強化する形で,従来の「信用失墜リストへの記入,代理業務の停止,民事責任の負担」をベースに,「商標の代理機構に警告,罰金などの行政処罰と司法処罰を与える」点が追加された。ほとんどの場合, 商標の代理機構は,悪意ある出願や悪意ある訴訟の主体ではなく,当事者の委託を受け,関連する受託業務を行うことにより代理費用を受け取る単なる代理人に過ぎない。よって,新設された第 4 項において規制される悪意行為は,悪意出願人の委託を受けた商標代理機構によるものではのみならず,悪意ある商標の出願人によるものでもあると言えよう。悪意ある信用失墜行為の阻止を最大限実現するためにも,上記の二者が法的に連帯責任を負わなければならないと思われる。

4.実務に関する具体的な問題と考察

4.1    如何にして「使用を目的としない悪意のある登録」であると判断するのか

商標法第 4 条の改正は,今回の法改正において最も注目される点である。本条の改正について正しく理解するためには,「使用」とは何なのか, そして,「使用を目的としない悪意のある登録」とは何なのかを先に理解しなければならない。

商標法第 48 条において,「この法律における商標の使用とは,商品の出所を識別するために, 商品,商品の包装,若しくは容器及び商品の取引書類に商標を用いる行為,または,広告宣伝,展示,及びその他の商業活動に商標を用いる行為をいう。」と規定しており,これが商標法上の「使用」の定義となっている。この定義によれば,商品の出所を識別する機能の実現を目的としない商標の防御出願や大量の登録出願,転売・譲渡を目的とする商標出願などは,商標法上の使用にはあたらないと判断できる。

それでは,如何にして「使用を目的としない悪意のある登録」を判断すればよいのだろうか。現在の商標制度の設計上,出願人が商標を出願する際には,何らかの証拠を提出し,「使用を目的とする」ことを証明する必要がない。それは,出願人がたとえ商標を出願した際に商標の使用目的を持っていなくても,その後のいずれかの時期に使用目的が発生する可能性が排除できない。また, たとえ商標を登録出願した際に使用目的を持っていても,実際に,この「目的」が執行されるとは限らない。よって,「使用を目的としない」は, あくまでも動態的かつ主観的な認定に過ぎない。「悪意」という文言が追加されたのは,「使用を目的としない」という内容をさらに「善意」と「悪意」に分けることを意味する。つまり,問題の焦点は,如何にして「善意」・「悪意」の判断をするのかにある。

疑う余地もなく,商標の登録出願を大量に行い, 利益獲得のための譲渡を目的とする行為は,悪意を持った登録出願にあたると言えるだろう。例えば,2018 年における中国の商標出願数ランキング TOP10 のうち,6 の出願人は貿易会社であった。これらの 6 社の貿易会社に共通している特徴は,設立して間もない点( 1 年足らず),登録資本が少なく,法定代表者が同一人物である点,登録住所が特定の地点に集中しており,出願した商標件数が数千件にも達する点である。また,ランキング TOP100 のうち,18 の出願人は自然人であった。特に,100 位に位置していた出願人は, 自然人でありながら,出願件数がなんと 1,099 件にも達していたのである。これらの貿易会社や自然人がややもすれば,1 年間で数千件の商標を登録出願していることから見ても,その出願行為が使用を目的とせず,悪意のある登録出願にあたることが容易に推測できる。

上記のような容易に判断できる場合以外にも, 年間数百万件という莫大な商標出願審査に関する業務量を前に,審査段階において,今回の改正後の商標法第 4 条をより効果的に運用させるため, 関連部門は可能な限り早い段階で相応の詳細措置を打ち出さなければならないであろう。国家知識産権局が起草を検討している部門規則「商標出願登録行為を規範化するための若干の規定」は,今回の商標法の改正内容を実務レベルで詳細化し, 悪意のある出願と大量登録の行為の具体的な類型やその他の処理措置を明確にしたものである。この規定は,2019 年 11 月 1 日(すなわち,改正商標法の施行日)以前に公布される見通しである。これは,国家知識産権局の各商標審査部門による関連事件の審理に対し,法律の適用における明確な形での参考例を提供するであろう。司法実務において,商標法第 4 条をどのように適用すべきかについては,北京市高級人民法院が2019 年 4 月 24 日に公布した「商標権利付与・権利確定行政事件の審理ガイドライン」第 7.1 条において,次のように規定している。

「商標出願人に誠実な使用意思が明確に見られず,かつ,次のような状況のいずれかに該当する場合,商標法第 4 条の規定に違反すると認定できる。

(1)異なる主体が保有している一定の知名度, または,極めて顕著な特徴を持つ商標と同一, または,類似する商標を登録出願し,かつ,その情状が深刻である場合。

(2)同一の主体が保有している一定の知名度, または,極めて顕著な特徴を持つ商標と同一, または,類似する商標を登録出願し,かつ,その情状が深刻である場合。

(3)他者が保有している商標以外のその他の商業標識と同一,または,類似する商標を登録出願し,かつ,その情状が深刻である場合。

(4)一定の知名度を持つ地名,観光スポットの名称,建築物の名称などと同一,または,類似する商標を登録出願し,かつ,その情状が深刻である場合。

(5)商標を大量に登録出願し,かつ,その正当な理由が見られない場合。

上記の商標出願人が真実の使用の意思があると主張したものの,証拠の提出による証明が行われなかった場合,その主張は支持されない。」

北京市高級人民法院が列挙した以上のケースを踏まえ,個別事件ごとに,悪意ある出願にあたるかどうかを総合的に判断しなければならない。ただし,最も重要なのは,以下の三点について考慮する必要があることである。

(1)先の顕著な特徴を持つ商標,または,商業標識に対する無差別な踏襲にあたるのかどうか。

(2)出願人は,他者の商標,または,商業標識を大量に冒認出願した前科があるかどうか。

(3)出願人に登録出願した商標についての如何なる使用の意図が見られないかどうか。

4.2    使用を目的としない商標の防御出願は悪意のある商標登録にあたるのか

全国人民代表大会憲法・法律委員会「商標法改正案(草案)審議結果に関する報告書」によると, この草案においては,商標法第 4 条第 1 項に「使用を目的としない商標登録出願は,拒絶しなければならない。」という規定が追加されたものの, 常務委員会の一部のメンバーからは,既に商標登録を受けており,実際にその商標の使用を行っている企業が予防という目的から商標を出願している事実を鑑みれば,この種類の出願を全て拒絶するのは妥当だとは言えないという指摘が聞かれた。これを受けて,憲法・法律委員会はこの指摘に関する検討を実施した後,「使用を目的としない悪意のある商標登録出願は,拒絶しなければならない。」という文言に変更するという提案が行われた。

このことからも分かるとおり,今回の商標法第 4 条の改正プロセスにおいては,現在の市場環境において,防御を目的として商標登録出願する合理性,および,必要性が十分に考慮されたものとなっている。商標登録審査のプロセスにおいては, 商標出願人が商標を登録出願する必要性を考慮すると共に,商標登録出願に主観的な悪意があるかどうかが考慮されなければならない。出願人が単なる防御目的による商標の登録出願を行う場合, 原則的には「悪意」にあたらず,商標法第 4 条の規定には違反しないと考えられている。

4.3    商標訴訟において悪意ある目的によるものを如何にして判断するのか

新しく改正された商標法第 68 条第 4 項には,「悪意による商標訴訟に対し,人民法院が法による処罰を与える。」という条文が新設された。

商標権者が商標訴訟を起こすのは,正当な権利を維持するため,または,他人の違法侵害行為に対抗するためというよりも,訴訟の手段を採ることにより,自らが所有する登録商標を基に悪意のある賠償請求を行うこと,または,自らが所有する商標を相手に高値で購入させること,あるいは, 高額の許諾料の負担を相手に強要することがその目的となっており,正常な合法的訴求を明らかに超えた場合は,悪意のある商標訴訟にあたるものと認定できる。

現行の商標法第 7 条には,「商標の登録出願と使用は,信義誠実の原則に従わなければならない。」と規定されている。また,「中華人民共和国民法通則」においては,1986 年の時点で既に「民事活動においては,自由意志,公平的,等価有償, 信義誠実の原則が守られなければならない。」という定めがある。民法の基本原則は,法律体系において基礎的,かつ,全般的な役割を果している。これは,商標分野においても例外ではない。信義誠実の原則は,すべての市場活動の参加者が遵守すべき基本的ルールである。つまり,人々が誠実な労働を通じて,社会的財産を蓄積し,社会的価値を創出することを奨励・支持すると共に,これをベースに形成された財産的権益や合法的かつ正当な目的によるこの財産的権益を差配する自由と権利を保護している一方で,人々が市場活動において,信用と誠実の精神を堅持し,他者の合法的利益,社会の公共利益,市場秩序を損なわない前提で自らの利益を求めることを要求したものでもある。民事訴訟活動においても,同様に信義誠実の原則が遵守されなければならない。つまり,当事者が法律に規定された範囲内で自分の民事権利と訴訟権利を行使,処分を求めることが保障されている一方で,当事者が他人の合法的権益と社会の公共利益を損なわないことを前提として,自らの権利を善意的,慎重に行使できることを要求するものである。法律の目的と趣旨に違反し,他人の正当な権益を損なうことを目的に,悪意をもって権利を取得・行使し,市場の正当な競争秩序をかく乱する如何なる行為も,権利の濫用にあたり, その関連する主張には法律の保護と支持を与えてはならないのである。

今回新設されたこの第 68 条第 4 項は,正当な権利擁護と悪意ある訴訟の境界線を明確にすることにより,権利の保護と濫用の防止のバランスをとることをその目的としている。

以前,[2018]最高法民再 396 号 5)商標権侵害紛争事件(本事件は,2018 年中国法院 10 大知的財産権事件に選ばれたものである)において,最高人民法院は,以下のような判断を下した。指南針社,中唯社が保有している商標が 2,600 件を超えており,明らかに経営上の必要によるものではない。これらの企業は,一貫して商標を登録した後に高額での転売を実施しており,実際の使用の意思と使用の行為が見られない。実際に,ユニクロ社に    商標を転売しようとしたものの,拒絶されたということもあった。その結果,指南針社, 中唯社は,すべてのケースにおいて,ユニクロ社とその販売店を共同被告として起訴し,計 42 件の商標侵害訴訟を提起し,全国的な規模で大量の訴訟を提起している。二社の行為からは,明らかな悪意を感じ取ることができ,その行為は信義誠実の原則への明確な違反であると言えよう。そのため,司法資源を悪用し,商標権を基にした不正な利益をむさぼる行為は,法により保護されることはない。

この事件における指南針社,中唯社の訴訟行為は,悪意をもって商標訴訟を起こす典型的な行為にあたる。今回新設された条項によれば,かかる行為については,今後,人民法院による支持が得られないばかりではなく,法による処罰が与えられることになるだろう。このような改正は,健全, かつ,秩序立った商標管理,市場環境の浄化,不正に登録された商標権に基づく悪意をもった訴訟の抑制において,重要な意義があると言えよう。

4.4    商標権侵害訴訟における賠償問題

近年,中国は知的財産権保護の強化や知的財産権侵害に関する懲罰的な賠償制度による健全化を提唱してきた。司法の実務面においては,各地の法院の判決においては,知的財産権侵害の賠償額を徐々に引き上げる方向になっている。中には, 数百万人民元,数千万人民元の賠償額が言い渡された判決も珍しくない。しかし,これらの事件は, あくまで特許権侵害の分野に限られている。ほとんどの商標権侵害事件の賠償額は,数万から数十万人民元に留まっており,権利侵害者が得た利益には遠く及ばない額である。賠償額が低いということで,知的財産権の権利者が意欲を失ってしまうことになり,科学技術の進歩や起業の際のイノベーションの発展にもマイナスの影響を及ぼしている。

今回の改正では,知的財産権の保護強化という趨勢に対応し,第 63 条第 1 項における悪意賠償額の倍数の上限を 3 倍から 5 倍まで引き上げ,同条第三項における法定賠償額の上限を 300 万元(日本円で約 47.4 百万円)から 500 万元(日本円で約 79 百万円)まで引き上げた。賠償額の引き上げは,権利者にとっては喜ばしいものである。法定賠償額の増加という点からすれば,2013 年に定められた 300 万という法定賠償額の上限を, 僅か 6 年間を経て,500 万まで引き上げられた。国際的にも比較的に高い法定賠償額と言える。もちろん,法定賠償額の増加の幅と比較した場合, 悪意の場合の賠償の係数を 3 倍から 5 倍に引き上げたのは,権利者にとっては,より望ましいことだと言えよう。注意すべきは,懲罰的賠償の適用は,依然として当事者およびその弁護士による十分な立証責任に頼ったものとなる。法院が認定できるように「権利者の損失」,「侵害利益」,「許諾料の係数」が明確に証明されてから,これを基にして 5 倍以内の懲罰的賠償を主張することができるのである。したがって,当事者にとっては, 関連事件をベテラン代理機構に委託することが重要となる。

5.企業に対する提案

5.1    商標の防御出願を積極的に実施すること

今回の商標法改正は,2019 年 11 月 1 日から施行されることになっているものの,2019 年上半期に展開された商標の大量登録と悪意ある登録行為の阻止活動は,悪意ある商標登録の出願行為の抑制において,ある程度の効果が出ていると言える。国家知識産権局が 2019 年 7 月 9 日に発表した情報によると,2019 年上半期の商標登録の出願件数は,同期比 4.1% 減の 343.8 万件であり,近年見られなかった減少となった。それとは反対に,中国における外国企業の商標出願件数は,同期比 15.4% 増の 12.7 万件で,増加傾向を維持している 6)。そのうち,米国,日本,英国は,それぞれ同期比 13.6% 増,31.4% 増,56.9% 増となり, トップ 3 を占めている 7)。

上記データは,中国が知的財産権について量の面での発展でなはく質の面での発展を重要視している点,一方で,外国企業は中国への投資を通して,中国における発展の機会を逃さないという意欲が依然として旺盛であり,世界における革新的主体(創造力のある企業や発明家)が中国の知的財産権の保護とビジネス環境に対し,強い信頼を持っている点を現していると言えよう。
正常な経営が行われている企業にとっては,商標法第 4 条改正後の商標の防御出願問題に対し, 大きな懸念を抱く必要はないだろう。先願主義を適用する制度設計がなされている以上,他者による悪意のある冒認出願を防ぐために,商標の防御出願について積極的に検討したうえで,登録出願にあたっては,慎重に行動するよう,国内外の企業に対して提案したい。

5.2    日常の経営活動において,商標使用の証拠を可能な限り多く収集・保管すること

商標出願が商標出願,異議申立て,無効宣告のプロセスにおいて,第 4 条の規定による当局からの拒絶を受けた場合,その出願が「使用を目的とする」ものであることを証明しなければならない。その際に必要な証拠資料は,原則として中国国内において発生したものでなければならないものの,「使用を目的とする」ことを証明する証拠資料の作成時期については,現行の規定において明確な規定が存在しない。したがって,企業は日常の経営活動において,内部情報とファイル資料を保管するために優れた制度を設け,関連する項目に関する使用証拠を可能な限り多く収集・保管しておく必要がある。

5.3    正規の商標代理機構に委託を行うこと

今回の商標法改正において,悪意のある登録行為への規制が商標の登録出願,および,保護の全プロセスに反映されたものとなった。責任の主体は,商標出願人と商標権利者だけではなく,仲介を務める代理機構も含まれている。実際に,国家知識産権局は,今年 3 月に個別の特許代理機構による正常ではない特許出願行為に対し,新規代理業務の受付を 12 ヶ月間停止するという処罰を言い渡した 8)。商標代理機構は,国家機構の改革が実施された後に,国家知識産権局の管理下に置かれたため,今後は,商標代理機構も同様の処罰を受ける可能性がある。これを受けて,企業が商標業務を中国の代理機構に委託するにあたり,商標出願の各種リスクを最低限にまで抑えるため,可能な限り正規,かつ,信頼度の高い代理機構を選択し,その代理機構と効果的なコミュニケーションを取り続ける必要があるだろう。

6.まとめ

現在の中国における商標権保護重視の施策の内容は,これまでで最も高いレベルに達していると言える。一部の先鋭的な問題研究においては,突破的な研究成果と司法における判例が現れており,かつ,世界でも最先端の商標権保護制度へと進化を遂げようとしている。今回の商標法改正は,先行研究と裁判における事例をまとめ,使用を目的としない悪意のある出願をより効果的に阻止し,商標権侵害行為についてより強い処罰を与えることをその趣旨としている。今回の商標法改正を全体的に見た場合,単なる権利保護重視を目的としたものから,権利保護の重視と権利濫用の防止の両立を目指すものへと方向転換されたことに伴い,商標法は,構造的にも,内容的にもよりバランスのとれた法律となった。

今回の改正『商標法』は,2019 年 11 月 1 日から施行される。しかしながら,その効果がどのようなものになるかは,審査官と裁判官の自由裁量により決まることになるだろう。今回の改正内容が完全な形で実行され,中国における悪意ある冒認出願と侵害行為が後を絶たないという現状の打破に寄与することが期待される。また,この改正が間違いなく,中国におけるより最適化された利便性のある公平な市場の環境とビジネス環境の醸成にも役立つものになることを信じている。

(注)
1)通常は「囤积商标」という。
2)(2017)最高法行申 4132 号【武漢中郡キャンパス役務有限公司 vs 国家工商行政管理総局商標評審委員会の無効宣告(商標)に関する行政裁定書】
3)中国商標法第 4 条の規定「自然人,法人,その他の組織が生産経営活動において,その商品,または, その業務に関する商標専用権を取得する必要があ る場合は,商標局に商標登録を出願しなければな らない。」
4)「商標法」第 44 条の対象は,既に商標登録を受けた商標となっている。例えば,欺瞞的手段やその他の不正手段を通して,登録が認定された場合には,その無効宣告を請求できる。しかし,中国の商標審査の実務においては,当事者が“argumentum a maiore ad minus” という法律の原則に基づき,「商標法」第 44 条により,未登録の商標に関する異議申立てを行い,法院から支持を得たケースも存在している。
5)(2018)最高法民再 396 号【ユニクロ商貿有限公司 vs  広州市指南針会展役務有限公司,広州中唯企業管理諮問役務有限公司の商標権侵害紛争における民事判決書】
6)http://www.sipo.gov.cn/zscqgz/1140467.htm(最終アクセス日:2019 年 7 月 29 日)
7)http://www.cnipa.gov.cn/twzb/2019ndsjdlxxwfbk/ 2019dsjdfbkwzbd/1140432.htm(最終アクセス日: 2019 年 7 月 29 日)
8)http://legal.people.com.cn/n1/2019/0413/c42510- 31028211.htm(l  最終アクセス日:2019 年 7 月 29 日)

(原稿受領日   2019 年 7 月 29 日)