TRABの商標権利付与・権利確定行政応訴事件における主要敗訴原因の分析及び出願人に対する啓発

要旨  中国の商標権利付与権利確定行政訴訟事件において、法院は「商標類似」、「商品類似」、「事情変更」、「新証拠の採用」に対する異なる認知が被告側のTRAB(元中国商標評審委員会)の4大主要な敗訴原因に繋がった。そのうち、特に「事情変更」、「新証拠の採用」による敗訴率がずっと高い。例えば、2017年に第一審と第二審の司法手続きにおいて、この2つの問題によるTRABの敗訴事件がそれぞれ全体の42%、35%を占めた。本稿においては、TRABが最近3年間に発表した『法務通信』の内容を参照し、各年度の商標評審事件の行政応訴の全体図と各種の敗訴原因についてまとめ、最新の関連判決をいくつか紹介し、主に「事情変更」、「新証拠の採用」について述べていく。本稿を通じて、読者の方々に中国現在の商標評審事件の行政応訴の全体概況とこの2つの主要問題に対してよりよくご理解いただければ幸いである。

目次

1.はじめに

2.2015-2017年、TRABの裁決件数、応訴件数(率)、敗訴件数(率)の概要

3.2015-2017年、TRABが第一審、第二審での主要敗訴原因

4.商標法が規定した審査期限の強制はTRABが第一審、第二審で事情変更により敗訴した場合の主な原因となる

5. 法院による新証拠の採用はTRABの敗訴原因のうち高い比率を占め、且つ少しずつ増加している

5-1.新証拠の採用に関する現行の法律条文

5-2.新証拠の採用に関する現行の審判実務

6.おわりに

1.はじめに

近年、中国の商標出願件数の急激な上昇に伴い、各種の商標評審事件さらに行政訴訟事件も著しく増加した。その中、商標審査と司法実務における関心の高い問題と難易度の高い問題が多く存在している。2007年から、TRABは毎年その公式サイトで『法務通信』を発表し、前年度の商標評審事件の行政応訴の全体図とTRABの主要敗訴原因について紹介している。中国の商標行政訴訟事件

において、「事情変更」、「新証拠の採用」による敗訴率がずっと高く、既に主な敗訴原因になったが、現在日本国内では、この2つの問題に関する紹介がまだ少ないようである。この機会に、最近3年間(2015年-2017年)の『法務通信』の内容をまとめ、特に最新の関連裁判例を参照しながらTRABの2大主要敗訴原因となる「事情変更」、「新証拠の採用」について詳しく分析を行う。本稿は読者の方々が中国現在の商標評審事件の行政応訴の全体概況、および「事情変更」と「新証拠の採用」を如何に正確に利用すべきか、についてよりよくご理解いただき、その上、中国で商標権利化のときの一助となれば幸いである。

2.2015-2017年、TRAB事件の裁決件数、応訴件数(率)、敗訴件数(率)の概要1

表1:2015-2017年、第一審、第二審の判決件数

年度

第一審、第二審の判決件数

(万件)

2015

10.89

2016

12.52

2017

16.89

 

表2:TRABが第一審、第二審での応訴率(注:応訴率がTRAB評審事件の第一審の起訴率を反映した。)

年度

応訴量(万件)

応訴率

2015

0.76

7%2

2016

0.53

4.27%

2017

0.93

5.5%

 

表3:TRABが第一審、第二審での敗訴率

年度

第二審の判決

判決件数(件)

敗訴件数

(件)

敗訴率

2015

2094

611

29.2%

2016

2710

876

32.3%

2017

2614

977

37.4%

上の表より、第一審の判決においても、第二審の判決においても、最近3年間、TRABの敗訴率が次第に高くなってきたことが分かった。それでは、TRABの敗訴した主な原因はなんであろうか。

3.2015-2017年、TRABの第一審、第二審での主要敗訴原因

下記は2015-2017年に、TRABが第一審、第二審での主要敗訴原因の棒グラフと具体的なデータである(TRABの発表した『法務通信』によるものである)

 

図1:2015-2017年、TRABが第一審での主要敗訴原因

図2:2015-2017年、TRABが第二審での主要敗訴原因

表4:2015-2017年、TRABの第一審、第二審での主要敗訴原因

敗訴原因

第一審

第二審

2017

2016

2015

2017

2016

2015

事情変更

28.4%

8%

15%

22%

18%

17%

商標類似

21.1%

20.5%

22%

18.8%

22.5%

25%

新証拠の採用

13.6%

11%

14%

12.6%

7.6%

14%

商標の使用

(三年間不使用取消審判に使用証拠の提出)

13%

12.6%

6%

9.1%

6%

3%

商標の顕著性

6.8%

9.7%

6%

12.6%

7.2%

5%

商品類似

5.4%

14.2%

11%

8.8%

10.6%

12%

第10条1項8号

(不良影響)

5.4%

2.1%

5%

1.4%

2.3%

6%

第13条馳名商標

2.3%

4.8%

6%

4.8%

5.8%

8%

上記の表の中に、上位4位の敗訴原因を太字で表示したが、2015-2017年の3年間内に、第一審でも第二審でも、「商標類似」は常に一位あるいは二位であり、最も主な敗訴原因である。「商標類似」、「商品類似」は商標の行政、民事訴訟事件の中核となる基礎問題として、これに関してすでに山ほどの研究と論述があり、広く理解されているものであるため、本稿において詳しく述べないことにする。

「事情変更」が第一審、第二審の敗訴原因において平均的にそれぞれ17.1%、19%を占め、「新証拠の採用」が第一審、第二審の敗訴原因において平均的にそれぞれ12.8%、11.4%を占めている。「事情変更」、「新証拠の採用」はすでに主な敗訴原因に

なったと言える。例えば2015年に事情変更と新証拠の採用によるTRABの敗訴事件は合計546件で、約全体の30%を占めている。

4. 商標法が規定した審査期限の強制はTRABが第一審、第二審で事情変更により敗訴した場合の主な原因となる

事情変更の原則とは、法的行為の発効後に、その成立基礎となる客観的な事情が当事者の責任に帰属しない事由によって行為の時に予見できない重大な変化が生じた場合、不利な影響を受けた当事者がその行為の効力の変更や停止を請求することができる法原理を指す。それは民法の公平原則、信義誠実の原則に関する具体的な体現と運用である。

商標行政訴訟において、もし人民法院は行政機関の具体的な行政行為について合法性のみを審査するが、すでに変化した客観的な事実を無視すると、出願人にとって不公平であり、また商標権利が民事権利の一つであるとの属性にふさわしくなく、商標権者の利益を守る商標法の立法の主旨にも合わない。

この点は最高人民法院より審理した(2016)最高行再101号『GAP社と国家工商行政管理総局商標評審委員会の再審行政判決書』拒絶不服審判事件で体現されている。この事件において、第二審判決の下した後に、出願商標の唯一な引用商標が三年間連続使用停止によりすでに取り消され無効商標になったため、最高人民法院は事情変更の原則に基づき第一審、第二審の行政判決及びTRABの審決を取り消した。この事件こそ、最高人民法院に事情変更原則について思考させた。実質的な正義を実現するために、『商標の権利付与・権利確定に係わる行政案件審理の若干問題に関する最高人民法院の規定(法釈[2017]2号)』に事情変更が生じた時の対応方法の条文を新設した。関連条文の具体的な内容は次の通りである。第二十八条「人民法院が商標の権利付与・権利確認に係わる行政案件を審理する過程において、商標評審委員会が係争商標を拒絶、不登録或いは無効宣告する事由が無くなった場合、人民法院は新たな事実により商標評審委員会の関連裁決を取り消すとともに、変更後の事実により裁決しなおすよう商標評審委員会に命令することができる。」

上記の条文は全タイプの事件において、審決の合法性のみを簡単に審査することだけではなく、新しい事実に基づき判決を下すことができることを明確にした。この『規定』の施行前に、「事情変更」が主に拒絶不服審判事件で適用されていたが、無効宣告事件にも適用してよいか、については諸説論じられてきたところでもある。この『規定』は事件のタイプに対して細かく区分せず、全タイプの事件について事情変更後の事実によって審判を行うことができると規定している。

拒絶不服審判、登録不許可(異議)、無効宣告はみんな事情変更原則を適用することができるが、統計によって、事情変更は主に拒絶不服審判事件の行政訴訟において運用されていることが分か

った。2017年に第一審において事情変更による敗訴率が28.4%であり、前年度の8%より3倍余りも増えたことに気づいた。なぜ事情変更が2017年に爆発的な増加を示したのか。その主な原因として、急速に増えた事件量と厳しい法定期限3との狭間でTRABにきわめて高い審査プレッシャーをかけたため、2017年から拒絶不服審判事件の審理において原則的に引用商標の権利状態の最終確定を待たない措置を取らざるを得なくなった。

『法務通信』の内容によれば、TRABは2017年から、拒絶不服審判事件に対して下記のいずれの状況を除き、原則的に審査を猶与しないと決定した。

1)出願商標の出願前に、引用商標がすでに三年間連続不使用取消審判や無効宣告手続き中にあること。

2)引用商標がまだ登録できず、異議申立手続き中にあること。

3)引用商標が変更、更新、譲渡手続きにあり、かつ権利の衝突が取り除かれる可能性があること。4

中国『商標法』第三十四条には、拒絶不服審判事件の法定審理期限が最大12ヶ月間であることを明確に定められているが、『商標法実施条例』第十一条(五)には、「審理、審査中に事件申請人の請求によって先行権利の審理結果を待つ期間が商標審査、審理期間に計上されない」との規定がある。しかしここ数年商標評審事件の受理数量が連年に増えているが、その多くが拒絶不服審判事件であり5、評審事件の審理効率が極めて大きいプレッシャーに直面している。TRABの統計によると、この前、一部の審査官は一人で担当していた審査中止事件が最も多い時に6、7百件に達し、審査官が各中止事件について定期的に審理中止の原因を報告・説明しなければならなく、またこまめに引用商標の最新状態を確認する作業も行う必要がある。さらに、審査官のチームリーダーもこれらの審査中止の事件が中止の要件を満たすかどうかを自ら確認していた。このように、管理が難しくなるとともに、ファイルの破損、審査期限超過などの状況を避けることができなくなる。このような状況下で、審査の効率化、管理の規範化のために、TRABは原則的に拒絶不服審判の審査を猶与しないことに決めた。この審査実践の変化の影響を受け、2017年、TRABの審決総量は16.89万件に達し、前年の12.52万件と比べると35%も伸びた。

また、ご留意頂きたいのは、2016年2月25日、北京知的財産法院は事件立件(受理)廷で拒絶不服審判行政事件快速審理チームを新に設立したことである。事実と権利義務の関係が明確な拒絶不服審判行政事件に対して、快速審理制度が適用される。一般的に、正式立件から初回開廷まで、20日間位のみで十分である。そのため、通常、北京知的財産法院は第一審の法院として拒絶不服審判事件の審理を中止しない。それを受け、TRABが事情変更の原因で第二審で敗訴した事件も22%を占めている。このことは、第一審の法院でも効率を優先していることを示している。

当事者にとって、事情変更を利用し引用商標の障害を解消したいと決めた場合、いろいろと総合的な判断を行う必要がある。第一審の法院が、毎年、一定量の判決を下なければならない規定があることから、通常は審理を中止しないため、第一審で事情変更に頼りにし過ぎると、良い結果を得にくいかもしれない。一方、第二審の法院はほぼそのような制限がなく、また再審を担当する最高法院も完全にその影響を受けないので、第二審と再審において引用商標の権利状態に変化がありそうな場合、積極的に事情変更の原則を適用してよいと考える。

5. 法院による新証拠の採用はTRABの敗訴原因のうち高い比率を占め、且つ少しずつ増加している

本文に言及された新証拠というのは、訴訟段階に新に形成した証拠と限定せず、評審時にすでに客観的に存在したがそのとき提出せず訴訟段階に入ると補充提出した証拠のことも意味する。本文でいう新証拠は後者だけを指す。

人民法院は商標の権利付与、権利確定行政事件を審理する時、当事者が訴訟中に提出した新証拠を採用すべきかどうか、についてずっと異なる見解があり、実務中の運用も統一されてない。紛争を確実に解決するるために、客観的な事実の変化を尊重するべきものであるという声が聞こえてくる。これに対して、新証拠の採用が商標の権利付与、権利確定手続きに衝撃を与えるとともに、当事者を消極的に立証させることを招きやすいとの見解もある。また、折衷主義をとるべきとの声もある。訴訟過程に新証拠の採用は直接に事実の認定に影響を与えるだけではなく、最終的に商標評審委員会の具体的な行政行為の合法性の判定に対しても影響も与えるものとして、その重要性は言うまでもない。

2017年に、訴訟過程で提出された新証拠の採用による敗訴は第一審、第二審の敗訴事件のうち、それぞれ13.6%、12.6%を占め、既に商標評審委員会の主な敗訴原因の1つとなった。且つ、2016年と比べるとどちらも増えた。特に第二審で新証拠の採用による敗訴事件が2016年の7.6%から2017年の12.6%にも上がり、2倍弱も増えた。

5-1. 新証拠の採用に関する現行の法律条文

原則的には、法院は新証拠の採用についてずっと厳しく制限している。

2014年11月に改正された『行政訴訟法』の第三十六条第二項には、「原告または第三者が、その行政処理の手続の中で提出しなかった理由または証拠を提出した場合には、人民法院の許可を経て、被告は証拠を補充することができる。」との規定を新設した。改正後の『行政訴訟法』は法律上に当事者が訴訟において新証拠を提出する権利があることを明確にしたが、新証拠の採用が依然として厳しく制限されている。『最高人民法院による行政訴訟証拠にかかる若干問題に関する規定』第五十九条には、「被告は行政手続きで法定規定に従い原告に証拠の提供を要求したが、原告が法律上に提供すべきだが提供せず、訴訟手続で提供した証拠について、人民法院は通常それを採用しない。」と規定している。

『最高人民法院による行政訴訟証拠にかかる若干問題に関する規定』第六十条:

「下記証拠が訴えられた具体的な行政行為の合法性を認定するための根拠にならない:

 …

(三)原告や第三者が訴訟手続で提供したが、被告が行政手続きで具体的な行政行為のとき依拠としなかった証拠。」

5-2.新証拠の採用に関する現行の裁判実務

法律、法規の観点では、人民法院は商標の権利付与・権利確定事件の審理中に、商標評審委員会が行政裁決を下した時の事実状態を尊重するべきであり、原則として通常、新証拠をそのまま受け入れるべきではない。なぜかというと、一旦、訴訟過程に当事者の提出したこの種類の新証拠に対して制限せずそのまま受け入れると、商標の権利確定・権利付与手続きに衝撃を与えることになり、当事者が行政手続きで消極的に挙証することになってしまう、または訴訟手続中に突然挙証することになってしまう。

2014年のある指導判例6-(2014)民提字第24号『王砕永、深セン歌力思服飾股份有限公司にかかる商標権侵害紛争再審民事判決書』において、最高人民法院は王砕永が最高人民法院の法廷で新たに提出した9グループの新証拠を採用しなかった。その原因について、「王砕永が法廷で提出した上記の23グループの証拠はすべて自分で保存したもの、あるいは簡単に検索するとすぐ入手できる資料であり、且つ上記証拠の形成時間がはるかに第一審の判決時間より早い。本件訴訟を提起した原告として、王砕永は第一審、第二審の審理期間内に提出せず、また本院の明確に指定した挙証期間内に上記証拠を提出しなかったが、開廷当日に法廷で突然に証拠を提出した。司法解釈の規定により、このような信義誠実の原則に反し、訴訟権利を濫用した行為について、本院は支持しないことにした」と述べた。

一方、人民法院は紛争の実質的な解決も配慮しなければならず、当事者が救済ルートを喪失することを避けるために、条件付きで新証拠を採用すべきである。具体的な状況は以下の通りにご紹介する。

(1)禁用商標・禁登録商標にかかる行政事件の場合、通常、新証拠を採用する傾向である

禁用商標は『商標法』第十条(国家名称、国際組織名称、宗教、地名など公益保護、または品質誤認など)に定められた商標として使用してはいけない、禁登録商標は第十一条(識別力の欠如)に定められた商標として登録してはいけない。

このタイプの事件において、人民法院は各当事者が法院の指定した挙証期間内に関連新証拠を提出することを許可する傾向がある。こうすることで、法院は係争商標がこれらの関連条文に適用されるべきかについて全面的、正確的に判定することが確保できる。

2016年のある典型判例7-(2016)最高法行申2159号『国家工商行政管理総局商標評審委員会、BLUETOOTH SIG,INC.にかかる拒絶不服審判(商標)再審行政裁定書』の場合、最高人民法院は新証拠を採用した。

この事件において、商標評審委員会は、第42類に指定した第5918201号「蓝牙(注:BLUETOOHの中国語表現)」出願商標が直接に指定役務の技術特徴を表し、商標としてあるべき顕著性に欠けるものとし、『商標法』第十一条第一項第二号の規定に違反したと判断し、その出願を拒絶した。出願人は評審手続きですでに関連証拠を提出し、さらに第一審でBLUETOOH認証専門家による声明書などたくさんの新証拠も補充提出した。第一審の法院は判決に、「原告は訴訟段階で提出した証拠が、正当な理由がなく行政評審段階で被告に提出せず、かつ被告(TRAB)が第129452号審決を下したときの根拠ではないため、本院は法律に基づいてそれを採用しないことにした。たとえ採用するとしても、これらの証拠は出願商標が『商標法』第十一条第一項第二、三号などの関連規定に合う、商標として登録できることを証明するには不十分である」と指摘した。第一審の北京市第一中級人民法院も、第二審の北京市高級人民法院も商標評審委員会の拒絶決定を維持した。出願人はそれに不服とし、最高人民法院に再審を申請し、かつ再審段階で出願商標が中国での使用と知名度を証明する文章など合計5部を新証拠として補充提出した。最高人民法院はこれらの新証拠を採用し、判決に「上記の新証拠はBLUETOOH社がその関連主張に対する補充証明であると判断し、採用することにした。かつこれらの新証拠を係争の焦点と結び付けながら論評する。」と述べた。

(2)商標取消不服審判行政事件の場合、通常、新証拠を採用している

商標の三年間不使用取消制度の立法目的は商標リソースを有効化し、使用していない商標を一掃することである。そこで、取消は手段に過ぎなく、目的ではない。人民法院は商標権者に積極的、真実的、公開的、有効的に商標を使用させることを推奨する本意から、通常、当事者が訴訟過程中で提出した新しい使用証拠を受け入れている。

例えば、(2018)京73行初3964号三年間不使用取消不服審判第一審事件8において、第1500609号「云栖YUNXI」商標の権利人は評審手続きでこの商標が青図用紙、片面青図用紙などの商品における使用証拠だけを提出したが、これらの商品が当該商標の指定商品「1601紙、1602コピー用紙(文房具)、1603ぺーパーナプキン」などと大きく異なり、同一または類似商品に属さないため、商標評審委員会は係争商標を取り消すことに決めた。第一審の開廷審理中で、原告は法廷で係争商標の付いた「工事コピー用紙」の写真、契約書および関連領収書などの新証拠を提出した。これに対して、商標評審委員会は上記証拠の真実性を認めたが、訴訟過程中に提出したものなので採用すべきではないと反駁したが、第一審法院は新証拠として採用した。判決内容は次の通り:TRAB決定の作成後に、原告が訴訟中で被告の実体裁決の結果に十分な影響を与える新証拠を提出したことを鑑み、被告が当該行政行為を作成したときの根拠となる事実の基礎が客観的に大きく変わり、且つこの事実の変化はすでに訴訟を受けた決定を主要証拠が不十分な状況を引き起こし 、訴訟を受けた決定を取り消すべきである。

その他のタイプの事件に関して、例えば商標類似による拒絶不服審判行政事件において、新証拠が商標類似度の判断に十分な影響を与える場合であれば採用を考慮しても良いかと思われるが、異議不服審判、無効宣告行政事件などにおいて、新証拠を採用すべきかについて、依然として異なる見解がある。

(3)当事者に対する提案

新証拠の採用を巡る争議と不確定性により、当事者は評審過程中においてすでに存在した証拠を全力で収集し、法定期間内にすべて提出するように努力すべきである。これで、最大限度で証拠の効力を保証することができる。

評審時にすでに客観的に存在していたが、その時に提出しなかった証拠について、これらの証拠が事件の結果に大きな影響を与えそうな場合、新証拠として訴訟中にタイムリーに提出し、事件のタイプによって異なる対応策を取るべきである。

まとめると、当事者は訴訟活動で信義誠実の原則に従い、善意を持ちながら、かつ慎重に自分の訴訟権利を行使するべきである。

6.おわりに

本稿をきっかけにして、中国現在の商標評審事件の行政応訴概況を把握し、特に「事情変更」、「新証拠の採用」という2つの主要問題に関する理解を深めることができ、また商標訴訟において、確実な予測と妥当な訴訟戦略を作成するときの一助となれば幸いである。

商標法律制度の完備と審査審判実践の発展に伴って、今後、TRABの敗訴原因も変化しつつある。我々も常に業界の最新動向に注目する必要がある。

 

1データの出所

・国家知的財産権局商標評審委員会法務通信総第72号(2018年6月)http://home.saic.gov.cn/spw/fwtx/201806/t20180619 274666.html (参照日:2019.2.18)

・国家知的財産権局商標評審委員会法務通信総第70号(2017年6月)http://home.saic.gov.cn/spw/fwtx/201709/t20170920 269228.html(参照日:2019.2.18)

・国家工商行政管理総局商標評審委員会法務通信総第68号(2016年9月)http://home.saic.gov.cn/spw/fwtx/201609/t20160920 226901.html (参照日:2019.2.18)

22015年に評審事件の応訴率が高かったのは、主に2014年『商標法』の改正施行およびTRABコンピュータシステムのアップグレードの影響を受けたのである。

3『商標法』第34条には、拒絶不服審判の法定審査期限が請求を受け取った日から9ヶ月間と規定していが、特別な事情がある場合は許可を得た上でさらに3ヶ月間を延長することができる。

4詳しくは国家知的財産権局商標評審委員会法務通信総第72号(2018年6月)をご参照。

5 2016年に商標局による商標拒絶査定または部分拒絶査定の比率が40%に達した。

6指導判例とは、最高人民法院より選出しかつ統一的に発表した、全国の各級法院に指導的な役割と拘束力を持つ事例を指す。各級の人民法院がそれと類似の事件を審理する時に、最高人民法院より発表した指導事例を参考すべきである。詳しくは法発[2010]51号『最高人民法院による訴訟事例指導工作に関する規定』をご参照。

7指導判例の発表周期が長いため、最高人民法院は毎年影響が大きく、かつある程度強い典型的な意を持つ事件を「典型判例」として不定期に発表し、各級の法院が類似事件の審理のときの参照標準を提供する。

8(2018)京73行初3964号『杭州雲栖紙業有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会、李進英の取消不服審判第一審行政判決書』

参考文献:

・陶鈞(北京市高級人民法院知識財産権庭 裁判官),『中華商標』第5号,pp.30~34 (2017),『商標権利付与権利確定行政事件関連難点問題に関する調査研究報告書(一)』

・張月梅(TRABの元審査官), 『中華商標』第5号、pp.92-93(2018),『商標拒絶不服審判事件に審理を猶与するかに関する視点と態度』

・陶鈞,陶鈞コラム,知産力サイトhttp://zhichanli.com/article/319.html 2015-02-06『10件の訴訟事件から商標行政訴訟における新証拠の採用規則を見る』(参照日:2019.01.02)

・(2014)民提字第24号『王砕永、深セン歌力思服飾股份有限公司にかかる商標権侵害紛争再審民事判決書』

・(2016年)最高法行申2159号『国家工商行政管理総局商標評審委員会、BLUETOOTH SIG,INC.にかかる拒絶不服審判(商標)再審行政裁定書』

・(2014年)一中知行初字第6074号『国家工商行政管理総局商標評審委員会、BLUETOOTH SIG,INC.にかかる拒絶不服審判(商標)第一審行政判決書』

・(2016年)最高法行再101号『GAP(国際商標)社と国家工商行政管理総局商標評審委員会の再審行政判決書』